ピッツバーグに来たら、これだけは外せない——そう言われる観光スポットが「インクライン(Incline)」です。急な斜面をまっすぐ登り降りするケーブルカーで、街のシンボルとも言える存在。今回は2本あるインクラインを両方楽しんできました。

まずはモノンガヒラ・インクライン(Monongahela Incline)で山の上まで登り、丘の上の道を歩いて移動して、今度はデュケイン・インクライン(Duquesne Incline)で下る——という、ちょっと欲張りなルートです。片方だけ往復して帰る人が多いのですが、実はこの「2本を歩いてつなぐ」回り方が、2つの車体・2つの景色・尾根の散歩を一度に味わえていちばん贅沢。しかも後述のとおり、アプリを使えば1回分の運賃でこのルートをまるごと回れます

今回は、実際に乗って感じたことや、運賃・支払い方法・子連れでの利用しやすさなど、日本人目線で詳しくご紹介します。

インクラインとは?

インクラインは、急斜面を登り降りするケーブルカー(フニクラ)のこと。ピッツバーグは3つの川(モノンガヒラ川・アレゲニー川・オハイオ川)が合流する場所に開けた街で、川沿いの低地のすぐ背後に「マウント・ワシントン(Mount Washington)」という高い丘がそびえています。

昔、この丘の上に住む人たちがふもとの町へ通うために作られたのがインクラインでした。かつては17本もあったと言われますが、今も現役で走っているのはモノンガヒラとデュケインの2本だけ。どちらも1870年代に開業した、正真正銘の「動く歴史遺産」です。現在は通勤の足というより、街を一望できる絶景アトラクションとして、地元の人にも観光客にも愛されています。

ケーブルカーやロープウェイとの違い

「インクライン」と聞いてもピンとこない方も多いと思いますが、仕組みは日本でいうケーブルカー(鋼索鉄道)とほぼ同じです。高尾山などのケーブルカーを思い浮かべてもらうと近いイメージ。2両の車両がケーブルの両端につながっていて、片方が登るともう片方が降りる「つるべ井戸」のような仕組みで、急な直線の斜面を行き来します。専門用語では「フニクラ(funicular)」と呼びます。

紛らわしいのが、同じ「ケーブルカー」でもサンフランシスコの街なかを走るあのケーブルカーとは別物だということ。あちらは地面の下を動き続けるケーブルを車両がつかんだり離したりして進むもので、平らな道もカーブも走れます。一方インクラインは、決まった急斜面をまっすぐ登り降りするだけのシンプルな乗り物です。空中にゴンドラを吊るすロープウェイとも違い、あくまで地面のレールの上を走る「斜面版の小さな電車」だとイメージすると分かりやすいかもしれません。

ダウンタウンからのアクセス

モノンガヒラ・インクラインの下の駅は、ダウンタウンの対岸にあるステーション・スクエア(Station Square)のすぐ向かい。今回はダウンタウンから路面電車の「T」(ライトレール)に乗って向かいました。Red・Blue・Silver のいずれかのラインでステーション・スクエア駅まで行けば、目の前がインクラインの乗り場です。渋滞や駐車場探しを気にせず行けるので、車よりも気楽でおすすめのアクセス方法でした。

ひとつだけ運賃で注意したい点があります。ピッツバーグのTには、ダウンタウンとノースショア(PNCパークなどがある川の北側)を結ぶ「無料区間(Free Fare Zone)」があります。ただしステーション・スクエアはモノンガヒラ川を渡った対岸にあるため、この無料区間には含まれません。つまりダウンタウンからステーション・スクエアまでのTは通常運賃がかかります。「Tは無料」という情報を見かけることもありますが、それはあくまでダウンタウン〜ノースショア間の話なので、混同しないよう注意してください。

なお、アプリ「Ready2Ride」や交通系カードで支払えば、後述のとおり3時間は乗り継ぎ自由です。そのためTでステーション・スクエアまで来て、そのままモノンガヒラ・インクラインへ乗り継ぐ、といった移動も無駄なく楽しめました。

まずはモノンガヒラ・インクラインで登る

スタートは、ダウンタウン対岸のステーション・スクエア近くにある、モノンガヒラ・インクラインの乗り場から。黄色い車体が目印です。

チケットを買って、木のぬくもりを感じるレトロな車両へ。ドアが閉まると、ガタンと音を立ててゆっくり斜面を登り始めます。角度がなかなか急で、座席が階段状になっているのも面白いポイントです。

モノンガヒラ・インクラインの車両

登るにつれて、窓の外にはダウンタウンの高層ビル群と、ゆったり流れる川が広がっていきます。この「だんだん景色が開けていく」感覚こそインクラインの醍醐味。乗車時間はほんの数分ですが、それだけで十分すぎるほど満足できました。

モノンガヒラ・インクラインから見たダウンタウン

アメリカ最古の現役フニクラという歴史

このモノンガヒラ・インクラインは、1870年に開業したアメリカ最古の現役旅客用フニクラです。つまり150年以上ものあいだ、ずっと人を運び続けてきたということ。技術者ジョン・エンドレスによって設計され、もともとは「コール・ヒル(石炭の丘)」と呼ばれていたマウント・ワシントンへ、労働者を運ぶために作られました。1974年にはアメリカの国家歴史登録財(National Register of Historic Places)にも登録されています。

何気なく乗ってしまいますが、これほど古い乗り物が今も現役で通勤にも使われていると思うと、乗車体験がぐっと味わい深くなります。

グランドビュー・アベニューからの絶景

登りきって上の駅を出ると、そこはマウント・ワシントンの尾根沿いの道、その名もグランドビュー・アベニュー(Grandview Avenue/絶景通り)。名前に偽りなし、です。

眼下には、3つの川が「Y字」に合流していく地形と、そのあいだに立ち並ぶダウンタウンのビル群。この川に挟まれた三角形の中心部は「ゴールデン・トライアングル(Golden Triangle)」と呼ばれていて、ピッツバーグを象徴する眺めです。

グランドビュー・アベニューから撮影したダウンタウンの眺め

展望スポットには柵つきのテラスがいくつもあって、写真を撮る手が止まりません。昼間の景色ももちろん最高ですが、夕暮れから夜にかけて街の灯りがともる時間帯はさらに絶景になるそうです。

歩いてデュケイン・インクラインへ

さて、ここからが今回のルートのポイント。モノンガヒラの上の駅から、もう一方のデュケイン・インクラインの上の駅までは、グランドビュー・アベニューを西へ歩いて1マイル弱(約1.5km)。景色を楽しみながら歩いて向かいます。

道中もずっと絶景が続くので、散歩そのものがちょっとした観光になります。ただし途中にそこそこの上り下りの坂があるので、歩きやすい靴で行くのがおすすめ。無理はせず、景色と休憩を楽しみながらのんびり進みました。

グランドビュー・アベニューを歩いて移動中の景色

デュケイン・インクラインで下る

しばらく歩くと、赤い車体がかわいいデュケイン・インクラインの上の駅に到着。こちらは1877年開業で、モノンガヒラの弟分のような存在です。

実はこのデュケイン、一度は老朽化と利用者減少で1962年に営業を休止した歴史があります。しかしそれを惜しんだ地元の人たちが保存団体を立ち上げて資金を集め、翌1963年にみごとに復活させました。今も非営利団体(Society for the Preservation of the Duquesne Heights Incline)によって大切に運営されているというのが、なんだかグッとくるエピソードです。

いよいよ下りの乗車。木造のクラシックな車両に揺られながら、窓いっぱいに広がる街並みを眺めつつ、ゆっくりふもとへ降りていきます。登りとはまた違って、目の前に景色が「迫ってくる」感覚が新鮮でした。

デュケインの上の駅から見たゴールデン・トライアングル

上の駅には無料の博物館も

デュケインの上の駅には、無料で入れる小さな博物館が併設されているのも見どころです。昔の写真や道具が展示されていて、車両を動かしている巻き上げ機(木の歯車が使われています!)を間近で見学できるコーナーもあります。お土産が買えるギフトショップもあるので、乗る前後にちょっと立ち寄ってみるのがおすすめです。

乗らなくても展望台と博物館は無料で楽しめるので、「景色だけ見たい」という方にも嬉しいポイントでした。

運賃はいくら? — アプリなら1回分で両方乗れる

インクラインはピッツバーグの公共交通(PRT)の一部なので、観光アトラクションというより「路線のひとつ」という位置づけ。運賃は片道おおよそ2.5〜2.75ドルです(料金は改定されることがあるので、行く前に公式サイトで最新の金額を確認しておくと安心)。

ここで覚えておきたいのが支払い方法による違いです。専用アプリ「Ready2Ride」や交通系カードで買うと、1回分の運賃で3時間乗り放題になり、しかもこの券は両方のインクラインで共通して使えます。つまり、モノンガヒラで登って、歩いてデュケインまで移動し、そのまま下る——という今回のルートを、3時間以内なら1回分の運賃でまるごと回れるということ。今回のような乗り比べには断然アプリが便利でした。

一方、現金で乗る場合は3時間ルールのような通し券はなく、各インクラインでそのつど支払う形になります。両方乗るなら2回分の現金が必要です。

支払いは現金?カード?

ここは要注意ポイント。モノンガヒラは券売機でクレジットカードも使えますが、デュケインは窓口でのクレカ払いに対応しておらず、現金(できればぴったりの金額)が基本です。デュケインの駅には両替機もありますが、あらかじめ小銭を用意しておくとスムーズでした。

なお、デュケインでもPRTのアプリ券やパス(交通系カード)は使えます。そのため、事前に「Ready2Ride」アプリで前述の3時間券を買っておけば、両方のインクラインで現金のやり取りをせずに済みます。現金が不安な方や2本とも乗る予定の方は、アプリをダウンロードしておくのがおすすめです。

子連れでも楽しめる?

車両はゆっくり動くうえに、窓の外の景色がどんどん変わっていくので、子どもも飽きずに楽しめる乗り物だと思います。上の駅の展望エリアも柵があって見晴らしがよく、家族連れの姿も多く見かけました。ベビーカーの場合は、駅やグランドビュー・アベニューの坂道での取り回しだけ少し意識しておくとよさそうです。

まとめ

今回2本のインクラインをはしごしてみて、思っていた以上に満足度の高い時間になりました。かつては17本もあったインクラインのうち、今も現役で走っているのはモノンガヒラとデュケインの2本だけ。アメリカ最古のモノンガヒラで登り、絶景通りを歩いて、地元の人が守り抜いたデュケインで下る——という乗り比べは、2つの車体と2つの景色、そして尾根の散歩まで一度に楽しめる欲張りなルートでした。

実用面では、アプリや交通系カードを使えば1回分の運賃で3時間乗り放題になり、しかも両方のインクラインで使えるので、思ったより手軽に回れます。上の駅の展望台と博物館は無料なので、乗らずに景色だけ楽しみたい方にもおすすめです。駅間の徒歩移動には坂道があるので、歩きやすい靴だけ用意しておくと安心でした。

ピッツバーグというとステーキやスポーツを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、インクラインからの眺めはこの街ならではの体験です。ダウンタウンを散策する際には、ぜひ足をのばしてあの絶景を自分の目で確かめてみてください。

この記事で使える英語

インクラインの乗車やチケット購入で使える英語表現です。

one-way / round-trip(片道/往復)

チケットを買うときによく使う表現です。往復で買いたいときは round-trip と伝えます。

  • Two round-trip tickets, please.(往復チケットを2枚ください。)

Do you take credit cards?(カードは使えますか?)

デュケイン・インクラインは現金が基本なので、確認しておくと安心です。カードが使えない場合は現金(できればぴったりの金額)を用意しましょう。

  • Do you take credit cards? — Sorry, cash only.(カードは使えますか?——すみません、現金のみです。)

Is this the way to the Duquesne Incline?(デュケイン・インクラインはこちらですか?)

グランドビュー・アベニューを歩いて移動するとき、道を確認したい場面で使えます。

  • Excuse me, is this the way to the Duquesne Incline?(すみません、デュケイン・インクラインはこちらですか?)