手続きの書類やオンラインフォームで、ときどき「County」を聞かれることがあります。ピッツバーグに住んでいるならAllegheny Countyと書けばいい。それはわかっているけれど、なぜcountyを聞かれるのか、countyがどういう役割を持っているのかは、しばらく住んでいてもよくわかっていませんでした。

日本語に訳すと「郡」ですが、日本の郡とアメリカのcountyは中身がまったく違います。

日本の「郡」は名前だけ残っている

日本にも「郡」はあります。住所に「○○郡○○町」と出てくる、あれです。しかし日本の郡には行政機関がありません。郡庁も、郡議会も、郡長もいない。かつては行政単位として機能していましたが、明治以降の市制町村制と昭和・平成の大合併を経て、今では地理的な区分名としてのみ残っている存在です。

日本で生活していて「自分はどの郡に住んでいるか」を意識する場面は、ほぼありません。

アメリカのcountyは「政府」を持っている

アメリカのcountyは違います。県と市の間にある、実体のある行政単位です。独自の政府、議会、税制を持っていて、住民の生活に直接影響するサービスを提供しています。

ペンシルベニア州には67のcountyがあり、ピッツバーグが属するのはAllegheny Countyです。Allegheny Countyが担っている主な役割は次のようなものです。

税金。 セールスタックスの1%上乗せ はAllegheny Countyが課しているものです。州の6%に郡の1%が加わって合計7%。また、固定資産税(property tax)の評価と課税もcountyが行います。

裁判所。 countyごとに裁判所(Court of Common Pleas)があり、民事・刑事・家事事件を管轄します。陪審員(jury duty)の召集もcounty単位です。

選挙。 投票所の設置、有権者登録の管理、選挙結果の集計はcountyの仕事です。大統領選挙の開票結果が「county別」で報道されるのは、選挙の運営単位がcountyだからです。

公衆衛生。 Allegheny County Health Departmentは130の自治体すべてをカバーする公衆衛生機関で、飲食店の衛生検査や感染症対策を行っています。

公園。 Allegheny Countyはcounty parkも運営していて、North ParkやSouth Parkなどがこれにあたります。市の公園(city park)とは別の管轄です。

ピッツバーグ市 ≠ Allegheny County

混同しやすいのですが、ピッツバーグ市とAllegheny Countyは別の政府です。ピッツバーグ市はAllegheny Countyの中にある一つの自治体で、独自の市長と市議会を持っています。市の警察、消防、公共事業はピッツバーグ市の管轄で、countyとは独立しています。

そしてAllegheny Countyには、ピッツバーグ市以外に129もの自治体があります。合計130。borough(行政区)が96、township(町区)が29、city(市)が4(ピッツバーグ、McKeesport、Duquesne、Clairton)、そしてtown(町)が1。ペンシルベニア州のすべてのcountyの中で最も自治体の数が多いのがAllegheny Countyです。

130の自治体がそれぞれ独自の警察、ゴミ収集、税率、ゾーニング(土地利用規制)を持っています。隣の自治体に引っ越すだけで、ローカルタックスの税率が変わり 、ゴミ収集の曜日が変わり、警察が変わる。同じcountyの中なのに、自治体ごとにルールが違うのです。

なぜこんなに細かく分かれているのか

Allegheny Countyに130もの自治体がある理由は、製鉄業の時代にさかのぼります。

19世紀後半から20世紀前半にかけて、製鉄所の周辺に労働者の集落が次々と生まれました。各集落は独自に行政を組織し、それぞれがborough(行政区)として自治を始めた。川と丘で地形的に分断されたピッツバーグ周辺では、隣の集落と合併するインセンティブが薄く、それぞれが独立したまま今に至っています。

Pittsburgheseが地区ごとに微妙に違う方言を保存した のと同じ構造です。地形の分断が、言語だけでなく行政の分断も固定しました。

製鉄業が衰退した今、130の自治体がそれぞれ警察や行政を維持するのは財政的に厳しくなっていて、一部の自治体は近隣と消防やゴミ収集を共同運営し始めています。しかし合併の動きは遅く、130という数は減っていません。

なぜcountyを聞かれるのか

話を最初に戻すと、手続きや書類で「Which county?」と聞かれるのは、countyによって税率が違い、管轄する裁判所が違い、選挙区が違い、適用される条例が違うからです。ピッツバーグに住んでいてもAllegheny Countyの隣のWestmoreland CountyやWashington Countyに住んでいても、同じペンシルベニア州ですが、county単位のルールはそれぞれ異なります。

日本の郡は住所の一部として残っているだけですが、アメリカのcountyは生活のあらゆる面に関わる行政の単位です。「どの州に住んでいるか」だけでなく「どのcountyに住んでいるか」で生活のルールが変わる——州ごとの違い のさらに内側に、もう一層の違いがあるのがアメリカの行政構造です。

参考