アメリカでクレジットカードを使い始めてから、日本との違いをいくつか感じました。持っているカードに暗証番号がなかったこと、レストランで食後にレシートへチップ金額を手書きする流れへの戸惑い、ガソリンスタンドで郵便番号を求められて止まってしまったこと。一つひとつに仕組みがあります。
サインレスが標準になった経緯
かつてアメリカのクレジットカード決済は、レシートにサインをするのが標準でした。しかし2018年にVisa・Mastercard・American Express・Discoverの主要4ブランドがほぼ同時期にサイン不要の方針を打ち出し、現在ではサインを求められる場面はほぼなくなっています。
サインが廃止された背景には、ICチップ(EMVチップ)の普及があります。アメリカでは2015年ごろから磁気ストライプ中心の決済からICチップへの移行が進み、チップによる暗号化認証がサインの代わりに機能するようになりました。サインは形式的な確認手段に過ぎず、実際には筆跡の照合が行われているわけではなかったため、セキュリティ上の意味が薄れていたのです。
暗証番号がないカードもある
日本のクレジットカードはICチップに暗証番号(PIN)が紐づいているのが一般的ですが、アメリカのクレジットカードはPINが設定されていないものも多くあります。
これはアメリカが「Chip and Signature(チップ+サイン)」方式を採用してきた経緯によるものです。ヨーロッパで主流の「Chip and PIN(チップ+暗証番号)」とは異なるアプローチで、サインが廃止された現在では実質的にチップだけで認証が完結しています。デビットカードにはPINが設定されていることが多いですが、クレジットカードにPINを設定しない人も多くいます。
タッチ決済が普及している理由
タッチ決済(コンタクトレス決済)はアメリカでも広く普及しています。カードやスマートフォンを端末にかざすだけで決済が完了し、暗証番号もサインも不要です。
普及の背景の一つには、2020年のコロナ禍があります。接触を避けたいというニーズからタッチ決済への移行が一気に進みました。現在ではスーパー・薬局・カフェなど多くの店舗で対応しており、Apple PayやGoogle Payによるスマートフォン決済も同じ仕組みです。
チップをレシートに書き込む流れ
レストランでの支払いで最初に戸惑うのが、チップの書き込みです。日本ではレジで会計を済ませて終わりですが、アメリカのレストランでは流れが異なります。
会計を頼むと店員がカードを持っていき、処理をして戻ってきます。返ってきたレシートには合計金額の下に「Tip」「Total」の空欄があります。ここに手書きでチップ金額と合計を記入してサインをする、というのがテーブルサービスの標準的な流れです。カードの請求はこの記入した合計金額で後日確定します。
ファストフードやカフェのレジ払いでは、端末の画面にチップの選択肢が表示されることが多く、タップして選ぶ形式です。
郵便番号で本人確認をする仕組み
ガソリンスタンドや一部の店舗で、クレジットカードで支払う際に郵便番号(ZIP code)の入力を求められることがあります。ガソリンスタンドでは、ポンプを動かす前に郵便番号の入力が必要なことが多い。
これはAVS(Address Verification System、住所確認システム)と呼ばれる不正利用防止の仕組みです。カードの請求先住所に登録されているZIPコードと、入力されたZIPコードを照合します。カード番号を盗んだだけでは郵便番号がわからないため、不正利用の抑止になります。
日本発行のクレジットカードはAVSに対応していないことが多く、ガソリンスタンドのポンプで郵便番号を入力しても認識されずに弾かれることがあります。その場合はスタンドの店内に入ってカウンターで支払う方法が確実です。
日本との大きな違い
日本ではカードを店員に渡してサインするか暗証番号を入力する流れが長く続いてきましたが、アメリカは2018年以降サインを廃止し、タッチ決済とチップ認証を中心とした仕組みに移行しています。
一方、チップをレシートに手書きするスタイルはアナログに見えますが、テーブルサービスの文化と結びついているため、決済の仕組みが変わっても残り続けています。キャッシュレス化が進んでも、カードをかざして終わる決済と、ペンで金額を書き込む決済が同じ国に並存している——それがアメリカのクレジットカード文化の今の姿です。
参考
- Visa, “Visa Eliminates Signature Requirement for EMV Chip-Enabled Merchants in the U.S.”, 2018 — https://usa.visa.com/about-visa/newsroom/press-releases.releaseId.16213.html
- Chase, “How to Find the Zip Code on a Credit Card” — https://www.chase.com/personal/credit-cards/education/basics/how-to-find-zip-code-on-credit-card
- Stripe, “What is Address Verification Service (AVS)?” — https://stripe.com/resources/more/what-is-address-verification-service