初めてDaylight Saving Time(サマータイム)の切り替えを迎えたとき、カレンダーで日付はわかっていたのに、いざスマホの時刻が1時間進んでいるのを見ると不思議な気持ちでした。日本で育った自分にとっては、時計が勝手にずれるという体験自体が斬新でした。

スマホやパソコンは自動で切り替わりますが、エアコンやオーブンのタイマー、車の時計は手動で直す必要があります。年に2回、家中の時計を確認して回るのがアメリカの季節行事です。

いつ・どう変わるのか

切り替えは年に2回。

3月の第2日曜日の午前2時に、時計を1時間進めます。2:00が一瞬で3:00になる。“Spring forward"と呼ばれていて、この日は1日が23時間しかありません。1時間失う方なので、前の晩は早めに寝ました。

11月の第1日曜日の午前2時に、時計を1時間戻します。2:00がもう一度1:00になる。“Fall back"と呼ばれていて、この日は1日が25時間あります。1時間もらえる方なので、ちょっと得した気分です。

正式名称はDaylight Saving Time(DST)で、“Savings"ではなく"Saving"が正しい形です。日本では「サマータイム」と呼ばれますが、英語ではSummer Timeとは言いません(イギリスではBritish Summer Timeと呼びますが、アメリカではDaylight Saving Time)。

面白いのは、DSTの期間の方が標準時より長いことです。3月から11月までの約8か月がDSTで、標準時は11月から3月の約4か月しかない。1年の3分の2がDSTなのに「Saving(節約)」の方が名前についているのは、標準時が本来の姿でDSTが例外という建前だからです。実態としてはDSTの方が日常で、標準時の方が短い「冬時間」です。

農家のために始まった——は俗説

Daylight Saving Timeは農家に余分な日照時間を与えるために始まった、という説明をよく聞きますが、これは俗説です。実際には農家はDSTに強く反対していました。農作業は時計ではなく太陽に合わせるもので、時計を1時間進められると朝の作業時間が短くなり、作物を市場に届ける時間にも支障が出ます。酪農家は「牛の搾乳時間を政府の都合で変えられるのか」と抗議しました。

DSTの起源は第一次世界大戦です。1916年にドイツが照明用のエネルギーを節約するために最初に導入し、アメリカも1918年に追随しました。しかし戦争が終わると農家のロビー活動で1919年に廃止され、第二次世界大戦中に再導入され、1966年のUniform Time Actでようやく全米で統一されました。

No turn on red がオイルショック、クーポン文化 が大恐慌をきっかけに広まったのと同じく、DSTも戦時の応急措置が恒久化したケースです。しかも当初のエネルギー節約効果は、現在ではほぼゼロに近いという研究結果が出ています。

実施しない州もある

州ごとにルールが違う アメリカでは、DSTを実施するかどうかも州が選べます。アリゾナ州(ナバホ族居留地を除く)とハワイ州はDSTを実施していません。年間を通して標準時のままです。

さらに面倒なのは、アリゾナ州の中にあるナバホ族居留地はDSTを実施しているのに、その中にあるホピ族居留地は実施していないことです。アリゾナ州を車で横断すると、時計を変える→戻す→また変えるという事態になり得ます。

ペンシルベニア州はDSTを実施しています。例外はありません。

ヨーロッパとはずれるので注意

アメリカとヨーロッパ(EU)はDSTの切り替え日が異なります。アメリカは3月第2日曜と11月第1日曜ですが、EUは3月最終日曜と10月最終日曜です。

つまり3月中旬から3月末までの約2〜3週間、アメリカはすでにDSTに入っているのにヨーロッパはまだ標準時、という時期があります。10月末から11月初旬にも同様のずれが生じます。日本との時差は年に2回変わりますが(ピッツバーグと東京は13時間差↔14時間差)、ヨーロッパとの間ではさらに複雑で、年に4回変わる時期があることになります。海外との会議を設定するときは要注意です。

突然来る冬の暗さ

個人的にDSTの影響を一番感じるのは、11月に時計を戻した直後です。

ピッツバーグは北緯40度に位置していて、夏と冬の日照時間の差が大きい。夏至には15時間以上の日照がありますが、冬至には約9時間20分まで縮みます。DSTが終わる11月初旬、日没が突然1時間早くなって、夕方5時前には暗くなる。前日まで6時過ぎまで明るかったのが、一夜で景色が変わります。

冬が突然来たような気持ちになる。ピッツバーグの冬は曇りが多いので、暗さは余計にこたえます。

廃止の議論は進まない

2022年にアメリカ上院はSunshine Protection Act(通年DST法案)を全会一致で可決しました。年中DSTのまま固定し、時計の切り替えをやめようという法案です。しかし下院では審議されず、そのまま失効しました。

2025年のAP-NORCの世論調査では、47%が現行の切り替え制度に反対し、現行制度を支持する人は12%にとどまりました。

にもかかわらず法改正が進まないのは、「やめたい」の先が一致していないからです。同じ調査で通年DSTを望む人が56%、通年標準時が約40%。数のうえでは通年DSTに傾いていますが、睡眠医学の専門家は体内時計に近い通年標準時を推していて、支持の多い側と専門家の推す側が割れています。

通年DSTにすれば冬の朝が暗くなり、子どもが暗闇の中を登校することになる。通年標準時にすれば夏の夕方の明るさが失われる。どちらを選んでも誰かが困るので、結局現状維持が続いています。

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参考

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