アメリカのスーパーで卵を買うとき、最初に気づくのは12個入りというパックの単位です。日本では6個・10個が多いので、なんとなくボリュームがある印象を受けます。そして卵は冷蔵コーナーに並んでいます。日本でも冷蔵なのは同じですが、なぜ冷蔵する必要があるのか——調べてみると、日本とアメリカの卵は同じようで、仕組みがかなり異なっていました。
なぜ冷蔵が必要なのか
アメリカでは、卵は出荷前に温かい石鹸水と殺菌剤で洗浄・消毒されます。FDAの規定によるもので、サルモネラ菌などのリスクを減らすための処置です。
問題はこの洗浄によって、卵の殻の表面にある「クチクラ層」と呼ばれる薄い保護膜が取り除かれてしまうことです。クチクラ層は外部の細菌が卵内部に侵入するのを防ぐバリアの役割を持っています。これが失われると、細菌が内部に入り込みやすくなるため、冷蔵によって細菌の増殖を抑える必要があります。
つまりアメリカの卵が冷蔵されているのは「洗ったから」です。洗浄してクチクラを失った卵を常温に置くと、細菌が侵入・増殖しやすくなるため、購入後も冷蔵庫に入れておく必要があります。
ではEUの卵はなぜ常温なのか
ヨーロッパの多くの国では、スーパーの常温の棚に卵が並んでいます。これはアメリカと全く逆のアプローチです。
EUでは卵を洗わない代わりに、養鶏場の段階でサルモネラ菌のワクチン接種を鶏に義務付けています。「最初から汚染させない」という考え方です。クチクラ層が残ったままなので、常温でも細菌が内部に入りにくく、冷蔵する必要がない。
日本はアメリカと同様に洗浄・殺菌を行っていますが、生食を前提としているため流通段階での冷蔵管理がより徹底されています。
生食できないのか
アメリカの卵は加熱調理が前提で、生食は推奨されていません。卵かけご飯やすき焼きで生卵を食べる日本の文化は、世界的に見ても非常に特殊なものです。
「どうしても生卵を食べたい」という場合、Pasteurized Eggs(低温殺菌卵)を選ぶ方法があります。スーパーで見かけることがあり、殻にPマークが入っているものです。ただしPasteurized(低温殺菌済み)とPasture-raised(放し飼い)は全く別の表示なので混同に注意が必要です。
黄身の色が薄い理由
アメリカのスーパーで普通に売られている卵を割ると、黄身が薄い黄色であることが多いです。日本の卵は濃いオレンジに近いものが多いので、最初は少し違和感があるかもしれません。
この色の違いは鶏の飼料によるものです。黄身の色はカロテノイドと呼ばれる色素の量で決まり、トウモロコシ・アルファルファ・マリーゴールドなど色素の豊富な飼料を食べた鶏は濃い色の黄身を産みます。アメリカでは穀物中心の飼料が多く薄い黄色になりやすく、日本では消費者が濃いオレンジを「新鮮・高品質」のサインとして好む傾向があるため、農家がそれに合わせた飼料を与えています。黄身の色と栄養価には大きな関係はなく、見た目の好みに合わせて調整されているものです。
買う前にケースを開けて確認する
アメリカでは、卵を買う前にケースを開けて割れていないか確認するのが一般的な習慣です。USDAは割れた卵の販売を禁止しており、「購入前に確認を」と推奨しています。
割れた卵はクチクラ層だけでなく殻そのものが破れているため、細菌が内部に侵入しやすくなります。スーパーで割れたまま長時間置かれていた卵は特にリスクが高い。スーパーによっては会計時に店員がケースを開けて確認してくれることもあります。
日本のスーパーではケースを開けて確認する光景はあまり見かけません。アメリカでは当たり前の行動なので、戸惑わず開けて確認してから選ぶのがおすすめです。
サイズについて
アメリカの卵は12個入りが標準で、スーパーの棚に大量に並んでいる印象があります。サイズはUSDAの基準で分類されており、最も一般的なのは「Large」で、重さは1個あたり約57グラムです。日本のMLサイズ(58〜64グラム)とほぼ同等で、L(64〜70グラム)と比べるとやや小さい。視覚的にボリュームがあって大きく見えるのは、12個まとまって並んでいるからかもしれません。
まとめ
洗うから冷蔵が必要で、冷蔵するから生食できない——アメリカの卵の仕組みはこの一連の流れで整理できます。日本の卵かけご飯が成立しているのは、生食を前提にした厳格な管理体制があってこそで、それが世界的に見ていかに特殊なことかは、アメリカの卵を使うようになってから実感しやすいかもしれません。
参考
- FDA, “Shell Eggs from Farm to Table” — https://www.fda.gov/food/buy-store-serve-safe-food/shell-eggs-farm-table
- USDA, “Shell Egg Standards and Weight Classes” — https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/Shell_Egg_Standard%5B1%5D.pdf
- foodmicrob.com, “卵は洗うべきか、冷やすべきか” — https://foodmicrob.com/egg-refrigeration-policy-usa-eu/