アメリカで書類の手続きをしていると、「Notarization(公証)が必要です」と言われる場面があります。UPS Storeに行き、身分証明書を出し、担当者の前でサインをして、スタンプを押してもらう——それだけで書類に法的効力が加わります。目の前でサインするだけでそれほどの効力が生まれるのか、と最初は不思議に感じました。

ノータリーとは何か

Notary Public(ノータリー・パブリック)は州政府から委嘱を受けた公証人です。その役割は「この書類に署名した人物が、本人確認をした上で自らの意志でサインした」という事実を公的に証明することです。書類の内容が正しいかどうかを保証するのではなく、「誰が・いつ・どのような状況でサインしたか」を第三者として証明します。

日本の公証人と似ていますが、アメリカのノータリーははるかに広く普及しています。ペンシルベニア州だけで7万4,000人以上が委嘱を受けており、UPS Store・銀行・図書館・不動産会社・保険会社など、日常的な場所に配置されています。

なぜ目の前でサインするだけで効力が生まれるのか

ノータリーの仕組みはある種の「社会的な約束」に基づいています。

ノータリーが証明するのは3つのことです。本人確認書類(パスポート・運転免許証など)で署名者の身元を確認したこと、署名者が自らの意志でサインしたこと(強制された形跡がないこと)、そしてその場でサインが行われたことです。

この証明があることで、後から「サインしていない」「別人が署名した」「強制された」という主張を法的に退けやすくなります。ノータリーのスタンプと署名が入った書類は、裁判や行政手続きにおいて「正規に執行された書類」として扱われます。

日本のハンコとの比較

「サインを目撃するだけで効力が生まれる」という仕組みは、日本のハンコ文化と似た面があります。

日本では書類にハンコを押すことで「この人物が同意・承認した」という意思表示とします。ハンコそのものが本人を証明するわけではありませんが、社会的な慣習として法的効力を持ちます。アメリカのノータリーも同様に、サインの行為そのものではなく「公的な第三者が立ち会って確認した」という事実に効力の根拠があります。

ただし違いもあります。ハンコは本人がいなくても押せてしまうリスクがありますが、ノータリーは本人が物理的に目の前にいることを確認します。アメリカでは対面による身元確認がノータリーの核心です。

どんな場面で必要か

ノータリーが必要になる書類はさまざまです。不動産の売買・賃貸契約関連書類、遺言書・委任状(Power of Attorney)、宣誓供述書(Affidavit)、各種行政手続きの書類、国際的に使用する書類(後述のアポスティーユと組み合わせる場合)などがあります。

意外なところでは、アメリカでのクレジットヒストリーがない場合に電気・ガスなどの公共料金の契約でノータリーを求められることがあります。クレジットヒストリーの代わりに、本人確認と意思確認を公的に証明する手段として使われます。

日常的な書類(銀行口座の開設・携帯電話の契約・一般的な雇用契約など)にはノータリーは不要です。どの書類に必要かは相手方(行政機関・銀行・不動産会社など)の要求によって異なります。

どこで受けられるか

ピッツバーグではUPS Store・銀行(PNC・KeyBank・Chase など)・UPMCなどの医療機関・公証人事務所などで受けられます。ピッツバーグ市内のUPS Storeは複数店舗あり、ダウンタウン・スクワレルヒル・マウントレバノンなどに分布しています。

UPS Storeは店舗によって対応が異なるため、事前に電話で確認してから行くのが確実です。銀行は口座保有者向けに無料で提供しているところもあります。費用はペンシルベニア州の場合、1件あたり数ドル程度が一般的です。

アポスティーユとの違い

ノータリーとセットで出てくる言葉に「アポスティーユ(Apostille)」があります。アポスティーユはノータリーの上に位置する認証で、文書を外国で使用する際に必要になります。ノータリーで認証した書類をさらに州政府に提出してアポスティーユを取得することで、ハーグ条約加盟国で公的書類として認められます。

日本の書類をアメリカで使う場合や、アメリカの書類を日本で使う場合に必要になることがあります。

目の前でサインするだけで法的効力が生まれる——その仕組みの根拠は、第三者が立ち会って確認したという事実そのものにあります。日本のハンコも同じような「社会的な約束」に基づいているとすれば、不思議というよりむしろ、どちらも人と人の間の信頼を制度化したものなのかもしれません。

参考