ピッツバーグに独特の方言がある理由 は前の記事で書きましたが、では具体的にどんな表現があるのか。自分が日常的に使いこなしているわけではありませんが、Tシャツに印刷されていたり、お店の名前に使われていたり、地元の人の会話にふと出てきたりする——ピッツバーグに住んでいると自然に出会う表現をまとめました。
yinz(ヤンズ)
意味: あなたたち(you all)
例文: “Are yinz coming to the game tonight?"(今夜の試合、みんな来る?)
Pittsburgheseの代名詞。スコッツ・アイリッシュの"you ones"が縮まったもので、南部の"y’all"と同じ役割の言葉です。ピッツバーグ住民を指す「yinzer」もここから来ています。SNSのプロフィールでhe/himと並べて"yinz/yinzer"と書いている人がいるのは前の記事で触れた通り。Steelersの試合会場やスポーツバーで最も耳にする確率が高い表現です。
n’at(ナット)
意味: 〜とか、〜など(and that)
例文: “We went to the game n’at."(試合に行ったりしたよ。)
“and that"が縮まった表現で、文末に付けて「〜とか、そんな感じ」というニュアンスを加えます。日本語の「〜とか」に近い使い方です。特定の何かを指しているわけではなく、会話を柔らかく締める役割。ピッツバーグの日常会話では非常に頻繁に出てきます。
dahntahn(ダーンターン)
意味: ダウンタウン(downtown)
例文: “I’m heading dahntahn for lunch."(ランチにダウンタウンに行ってくる。)
Downtown の発音がPittsburghese式に変化したもの。“ow"の音が"ah"に変わるのはPittsburgheseの特徴的な音韻変化で、houseがhahse、outがahtになるのも同じパターンです。東欧からの移民が"ow"の音を持たない母語の影響で変化させた可能性があるとされています。
redd up(レッダップ)
意味: 片づける、きれいにする(clean up / tidy up)
例文: “Redd up your room before dinner."(夕飯の前に部屋を片づけなさい。)
スコッツ・アイリッシュ由来で、スコットランド語の"redd”(整頓する)がそのまま残ったもの。アメリカの他の地域ではまず通じない、ピッツバーグ周辺に限定された表現です。2003年に"redd up"がMerriam-Websterの辞書に地域方言として収録されました。
nebby(ネビー)
意味: 詮索好きな、おせっかいな(nosy)
例文: “Don’t be so nebby about their business."(他人のことにそんなに首を突っ込むなよ。)
スコットランド語の"neb”(くちばし、鼻先)から来ています。鼻を突っ込む=詮索する、という連想です。イギリスの一部でも"nebby"は使われますが、アメリカではピッツバーグ周辺でしか通じません。
slippy(スリッピー)
意味: 滑りやすい(slippery)
例文: “Be careful, the roads are slippy."(気をつけて、道が滑りやすいよ。)
標準英語のslipperyがslippyに短縮された形で、これもスコッツ・アイリッシュ由来。ピッツバーグの冬は雪と凍結が多いので、この単語を使う機会は多いはずです。天気予報でもローカル局のキャスターが使うことがあるそうです。
jaggers(ジャガーズ)
意味: とげ、とげのある植物(thorns)
例文: “Watch out for the jaggers in the backyard."(裏庭のとげに気をつけて。)
スコッツ・アイリッシュの"jag”(刺す)から派生した言葉です。“jagger bush"はとげのある茂みのこと。ピッツバーグ周辺の郊外やトレイルでは実際にとげのある植物が多く、実用的に使われる場面がある表現です。
gumband(ガムバンド)
意味: 輪ゴム(rubber band)
例文: “Hand me a gumband."(輪ゴムとって。)
“gum"はかつてゴム(rubber)を意味していた古い英語表現で、gum+band=ゴムのバンド。標準英語ではrubber bandですが、ピッツバーグではgumbandが一般的に使われています。日常的な単語が方言に置き換わっている例として、Pittsburgheseの特徴をよく表しています。
jumbo(ジャンボ)
意味: ボローニャソーセージ(bologna)
例文: “I’ll have a jumbo sandwich."(ボローニャのサンドイッチください。)
ピッツバーグ周辺でしか通じない食べ物の呼び方。語源は諸説ありますが、イタリア移民の影響とする見方が有力です。スーパーのデリカウンターで"jumbo"と言えばボローニャが出てきます。他の地域で言っても通じないので注意が必要です。
jagoff(ジャゴフ)
意味: 嫌なやつ、愚かな人(jerk / idiot)
例文: “That jagoff just cut me off in traffic."(あの嫌なやつ、割り込んできやがった。)
スコッツ・アイリッシュの"jag”(刺す、突く)から派生した侮蔑語で、2016年にオックスフォード英語辞典(OED)に正式に収録されました。ピッツバーグを代表する俗語として全米的にも知られています。使う場面は選びますが、地元の人がカジュアルに使っているのを耳にすることはあります。
もっと知りたいなら
Pittsburgheseについてもっと詳しく知りたい方には、いくつかの本やコンテンツがあります。
カーネギーメロン大学のBarbara Johnstone教授によるSpeaking Pittsburghese: The Story of a Dialect (Oxford University Press、2013年)は、方言の歴史と社会的意味を学術的に掘り下げた一冊です。ピッツバーグの方言がどうやってアイデンティティと結びついたのかを知りたいなら、この本が最も体系的です。
もう少しカジュアルに楽しみたいなら、YouTubeシリーズのPittsburgh Dad がおすすめです。典型的なピッツバーグの父親を演じるコメディで、Pittsburgheseの発音やイントネーションがふんだんに使われています。何を言っているか最初はわからなくても、ピッツバーグに住んでいるうちに「あ、これ聞いたことある」となる瞬間があるかもしれません。




