ピッツバーグに住んでいると、州の違いを実感する場面がたびたびあります。他の州に旅行に行けばガソリンの値段が全然違う。消費税率も州ごとに異なる。運転免許もナンバープレートも州が発行していて、引っ越せば切り替えが必要になる。
日本の都道府県にも違いはあるけれど、それは方言や食文化の話であって、法律や税率がここまで違うことはありません。アメリカの州は、日本の感覚でいう「県」よりも、EUにおける「国」に近い存在です。
なぜ州ごとにこんなに違うのか
アメリカの正式名称はUnited States of America——「アメリカの合わさった国々」です。もともと独立した植民地だった13の州が集まって一つの連邦を作ったのが建国の成り立ちで、各州は連邦に加入する前からそれぞれの法律と政府を持っていました。
この構造を支えているのが合衆国憲法修正第10条(Tenth Amendment)です。「憲法によって連邦政府に委ねられていない権限は、各州または国民に留保される」と定めていて、連邦政府が明示的に管轄していない分野はすべて州が独自に決められる。税率、教育、免許制度、刑法——こうした日常生活に直結する分野の多くは、州の権限に属しています。
50州がそれぞれ独自の憲法、議会、知事、裁判所を持ち、連邦法と矛盾しない範囲で自由に法律を作れる。これが「州ごとに違う」の根本的な理由です。そして単に制度が違うだけでなく、その背景にある考え方——政府はどこまで個人の生活に介入すべきか——が州ごとにまったく異なるのが面白いところです。
思想が違えば法律が変わる
たとえばニューハンプシャー州。州のモットーは"Live Free or Die"(自由に生きよ、さもなくば死を)で、これはナンバープレートにも刻まれています。そしてこのモットーは飾りではありません。ニューハンプシャー州は全米で唯一、18歳以上のシートベルト着用義務がない州です。2023年にも義務化法案が提出されましたが、「州憲法が保障する"政府の介入からの自由"に反する」として否決されました。安全であっても、それを強制するかどうかは別の問題だ——そういう思想が法律に表れています。
一方、ペンシルベニア州は規制がしっかりしている方です。車検は毎年義務(全米14州のみ)、ガソリン税は全米最高、お酒は州営の店でしか買えない。ニューハンプシャー州とは対照的に、政府が一定の管理を行う方向の州です。
大麻を合法にする州もあれば厳罰にする州もある。死刑を廃止した州もあれば維持する州もある。同じ国の中でこれだけ法律が違うのは、制度の問題というより思想の問題で、それぞれの州が「何を大事にするか」を自分たちで選んでいる結果です。
税金が州ごとに違う——さらに市や郡でも違う
日本では消費税は全国一律ですが、アメリカのセールスタックス(消費税に相当する税) は州ごとに税率が異なります。ペンシルベニア州は6%、Allegheny Countyでは1%が上乗せされて合計7%。一方、隣のデラウェア州やオレゴン州には消費税がありません。
所得税の違いはもっと大きい。ペンシルベニア州には3.07%の州所得税がありますが、テキサス州やフロリダ州など9つの州には州所得税がありません。テキサス州は州憲法で個人所得への課税を禁止していて、石油・天然ガスの採掘税や消費税で州政府を運営しています。ただし所得税がない州は消費税や固定資産税が高い傾向にあり、税の「取り方」が違うだけで住民の負担が消えるわけではありません。
さらにペンシルベニア州では、州税の上にローカルタックス(地方所得税)が重なります。ピッツバーグでは市が1%、学区が2%を課していて、州税と合わせると合計6.07%。フィラデルフィアではさらに高く、市の税率だけで3.75%。一方、郊外の自治体では1%程度のところも多い。同じ州に住んでいても、どの自治体を選ぶかで税負担が数パーセント変わります。
この仕組みの背景は、PA州の憲法が州政府の課税権を制限しているためです。代わりに約2,500の自治体や学区がそれぞれ独自に課税する権限を持っている。学校や警察、道路整備の財源を、住民に最も近い自治体レベルで確保する思想です。連邦→州→郡→市→学区と何層にも税が重なるのは、日本の住民税(全国でほぼ一律約10%)とは対照的な仕組みです。
運転免許も車検も州が管轄する
日本の運転免許は国が管轄する全国共通の制度ですが、アメリカの運転免許は州ごとに発行されます。他の州に引っ越したら一定期間内(30〜90日)にその州の免許に切り替える必要がありますが、他州の有効な免許があれば実技試験は基本的に免除されます。視力検査と書類手続き、州によっては筆記試験だけで新しい免許が発行される仕組みです。
ナンバープレートも州が発行していて、デザインは州ごとに異なります。走っている車のプレートを見れば、どの州から来た車かがすぐにわかります。
車検は州によって制度がまったく異なります。ペンシルベニア州は毎年の安全検査が義務で、1929年に全米で初めて車検制度を導入した州でもあります。しかし年次の車検を義務付けている州は全米で14州しかなく、テキサス州は2025年に車検を廃止しました。車検がない州では整備不良の車がそのまま公道を走っている可能性があるわけで、先ほどのシートベルトの話と同じく、安全と自由のバランスに対する考え方の違いが表れています。
ペンシルベニア州の特徴
ここまでの話を踏まえて、ペンシルベニア州ならではの特徴をいくつか挙げておきます。
お酒は州営の店でしか買えない。 ワインとスピリッツ(蒸留酒)は、Pennsylvania Liquor Control Board(PLCB)が運営するFine Wine & Good Spiritsという州営の店でしか購入できません。1933年、禁酒法が廃止された直後に「飲酒をできるだけ不便で高くつくものにする」という方針のもと設立された制度で、全米でこの仕組みを維持しているのはペンシルベニア州とユタ州の2州だけです。スーパーやコンビニでワインを買えないのは、他の州から来ると驚くところだと思います。
日曜日に車を買えない。 自動車ディーラーの日曜営業が法律で禁止されています。Blue Laws(安息日に商業活動を制限する法律)の名残です。
正式にはCommonwealthと呼ばれる。 50州のうちペンシルベニア、マサチューセッツ、ケンタッキー、バージニアの4つは正式名称がStateではなくCommonwealthです。実質的な法的違いはありませんが、公式文書ではCommonwealthと表記されます。
ガソリン税は全米最高 、車検は毎年義務、お酒は州営店のみ——こうして並べると、ペンシルベニア州は規制や税が重い方の州です。それはこの州が「政府による一定の管理」を良しとする思想に立っているからで、ニューハンプシャー州のような「個人の自由を最大限尊重する」州とは根本的な考え方が異なります。どちらが正解ということではなく、こうした選択が50通りあるのがアメリカという国の構造です。




