アメリカのファストフードやカフェで注文すると、“For here or to go?” と聞かれます。店内で食べるか、持ち帰るか。これ自体は迷うことのない質問ですが、最初に気になったのは言葉の方でした。

日本の英語の授業では「テイクアウトは和製英語で、正しくはto goを使う」と習った記憶がある。ところが実際にアメリカで暮らしていると、take outと言っている人も見かけます。あれは和製英語ではなかったのか?

to go、takeout、take away

結論から言うと、take outは和製英語ではありません。アメリカでも普通に使います。ただし場面によって使い方が違います。

to go は注文の場面で使う表現です。“I’ll have a coffee to go."(コーヒーを持ち帰りで)のように「持ち帰りで」という形容詞的な使い方をします。店員の “For here or to go?” もこの形。

takeout は名詞です。“Let’s get takeout tonight."(今夜はテイクアウトにしよう)のように、持ち帰り料理そのものを指します。

take away はイギリス英語で、アメリカではほぼ使いません。

つまり日本語の「テイクアウト」は英語のtakeoutをそのまま取り入れたもので、和製英語ではなかった。ただ注文時の言い方としては “to go” が自然なので、「テイクアウトは通じない、to goを使え」という教え方になったのだと思います。実際にはtakeoutも立派な英語で、使う場面が違うだけです。

食べ残しを持ち帰る文化

言葉の使い分けよりも驚いたのは、to goが使われる場面の方でした。日本のテイクアウトは「最初から持ち帰り用に注文する」ことを指しますが、アメリカにはもう一つ、「レストランで食べきれなかった料理を箱に入れて持ち帰る」という習慣があります。これがto-go文化の大きな特徴です。

店員に “Can I get a box?” と言えばto-go用の容器を持ってきてくれます。ちょっといいレストランだと、店員が皿を下げてきれいに詰め直して持ってきてくれることもありました。カジュアルな店では容器だけ渡されて自分で詰めるのが普通です。

日本でこれをやろうとしてもほとんどの飲食店では断られます。食品衛生上の理由で、一度提供した料理を客が持ち帰ることへの懸念が強い。アメリカではそういった心配よりも「お金を払ったのだから残りは持ち帰る」という感覚の方が優先されています。

なぜアメリカの量は多いのか

そもそも持ち帰り文化が成立するのは、一人前の量が多すぎて食べきれないからです。ではなぜアメリカのレストランはあんなに量が多いのか。

きっかけは1970年代の農業政策でした。政府が農家への補助金を拡大し、食材の生産コストが大幅に下がった。レストランにとって、皿に盛る量を増やすコストは微々たるものです。パスタやポテトを少し多く盛るのに数十セントしかかからないのに、客には「お得感」を大きくアピールできる。こうしてレストラン間の競争の中でポーションサイズは拡大し続け、1970年代から80年代にかけて急激に大きくなりました。

量が増えれば食べ残しが出る。食べ残しが出れば持ち帰りたくなる。こうして持ち帰り文化が定着しました。

もともとこの「持ち帰り」の仕組みには"doggy bag”(ドギーバッグ)という名前がついていました。第二次世界大戦中の食料不足の時期に、レストランの食べ残しを「犬に食べさせるために」持ち帰る習慣が広まったのが始まりです。1940年代にはサンフランシスコのカフェが"Pet Pakits"という名前の容器を用意し、シアトルのホテルは"Bones for Bowser"と書いた紙袋を出していたそうです。建前は「犬のため」ですが、もちろん食べるのは人間。今では誰もそんな言い訳をせずに “Can I get a box?” と言うだけです。

容器は日本のテイクアウト容器と比べるとかなり大きく、発泡スチロールの白い二つ折り型(クラムシェル)や紙製の箱が定番です。ステーキやパスタが丸ごと入るサイズで、車に積んで帰る前提のスケール感です。

正直に言うと、持ち帰ったものを翌日ちゃんと食べるかというと、意外と食べなかったりもする。それでもその場では「もったいないから」と箱に詰めてしまう。doggy bagの時代から本質は変わっていないのかもしれません。

to-goのチップ

テーブルについて店員にサーブしてもらうフルサービスのレストランでは、15〜20%のチップが一般的です。ではレストランでto-goだけ注文して受け取る場合はどうか。

これはアメリカ人の間でも意見が割れていて、エチケットの専門家の見解も「不要」から「10〜15%が望ましい」までばらばらです。2025年のBankrateの調査では、41%のアメリカ人が「チップ文化は行き過ぎだ」と回答しており、“tipflation”(チップインフレ)という言葉まで生まれています。

特にここ数年、カウンターのレジ端末でチップの選択画面が表示される場面が増えました。コーヒーを1杯買うだけでも「15% / 20% / 25%」と選択肢が出てくる。店員の目の前で操作するので、断りづらい空気があります。

目安としては、カウンターで自分で受け取る場合はチップを付けなくても失礼にはあたらない、レストランのto-go注文では気持ち程度を付ける人もいる、というのが現在の相場感のようです。ただし明確な正解がない問題なので、最終的には自分の判断になります。

参考