アメリカで郵便を出そうと思ってUSPS(United States Postal Service)の郵便局に行ったとき、まず気づいたのは営業時間の違いでした。日本の郵便局は平日9時〜17時がほぼ共通ですが、USPSは店舗によってばらばらで、土曜は午前中だけのところもあれば、平日でも16時に閉まるところもあります。Googleマップで調べたら近所に2か所あるのに営業時間が全然違う、ということもありました。

USPSは今も政府の機関

営業時間がばらばらなのは、USPSの「郵便局」にいくつかの種類があるからです。フルサービスのPost Office(本局)、小規模なStation / Branch(出張所)、薬局やスーパーの中にカウンターを置くContract Postal Unit(委託局)、タッチパネル式のSelf-Service Kiosk。何をしたいかによって行く場所が変わります。切手を買うだけならKioskで十分ですが、パスポートの申請はPost Officeでしかできません。

パスポートの申請を郵便局でできるのは、日本の感覚だと不思議に思えます。日本の郵便局はパスポートを扱いません。この違いの根底にあるのは、USPSが今も連邦政府の独立機関だということです。

日本の郵便局は2007年に民営化されて日本郵便株式会社になりました。一方USPSは民営化されておらず、行政府(executive branch)に属する公的機関のままです。だから国務省のパスポート申請受付窓口を兼ねることができるし、全米のすべての住所に郵便を届ける義務(Universal Service Obligation)も負っています。都市部でも過疎地でも、USPSは届ける。民間のUPSやFedExにはこの義務はありません(USPSと民間の配送サービスの違いは配送サービスの記事 で詳しく触れています)。

ただし公的機関でありながら、運営費は税金ではなく切手代や配送料でまかなっています。近年はメールやSNSの普及で郵便物の量が減り続けており、USPSは慢性的な赤字を抱えています。2025年度の損失は約90億ドル。その赤字を埋めるために切手の値段が上がり続けている——というのが次の話です。

Forever Stamp——値上がりしても使える切手

USPSの切手で最もよく使うのがForever Stampです。2007年に導入された仕組みで、いつ買っても、その時点のFirst-Class Mail(普通郵便1オンスまで)の料金として使えます。名前の通り「永久に」有効で、値上がりした後も追加料金なしでそのまま使えます。

2026年7月現在の価格は82セント。導入時の2007年は41セントだったので、19年で2倍です。ここ5年だけで6回値上がりしていて、郵政長官は今後90〜95セントまでの引き上げを示唆しています。

日本の切手は額面が印字されていて、料金改定があれば差額分を貼り足す必要があります。Forever Stampはそれが不要で、何年前に買った切手でも1枚貼るだけで普通郵便が出せる。頻繁に値上がりするアメリカだからこそ、値上がり前にまとめ買いしておく人もいます。

届く前にわかるInformed Delivery——荷物が届かない国だから便利

USPSにはInformed Deliveryという無料サービスがあります。自宅に届く予定の郵便物を、配達される前にメールで知らせてくれる仕組みです。

USPSの仕分け機が郵便物の表面をスキャンし、そのグレースケール画像を毎朝メールで送ってくれます。今日届く予定の手紙やはがきの差出人が事前にわかるし、「今日は何も届かない」とわかるのも地味にありがたい。USPSのサイトで住所を登録するだけで使えます。

このサービスが特に役に立つのは、アメリカでは郵便物や荷物がなくなることが珍しくないからです。玄関先に荷物を置いていく配達方式が一般的で、不在中に放置された荷物が盗まれる「ポーチパイレーツ」(porch pirates)は社会問題になっています。Informed Deliveryで「今日届くはず」とわかっていれば、届いていない場合にすぐ気づける。日本の丁寧な再配達文化とは事情が違うからこそ、こうした仕組みが必要とされています。

引っ越しの郵便転送はオンラインで完結する

引っ越しをしたとき、旧住所宛の郵便物を新住所に転送してくれるMail Forwardingというサービスがあります。日本の郵便局でも転居届を出せば転送してくれますが、USPSの場合はオンラインで手続きが完結します。

USPSのサイトで旧住所と新住所を入力し、転送開始日を指定するだけです。本人確認のため$1.10のクレジットカード決済が必要ですが、窓口に行く必要はありません。転送期間は最大1年間で、First-Class MailやPriority Mailが対象です。

アメリカでは銀行・保険・公的機関など郵便で届く重要書類が多いので、引っ越しの際は早めに設定しておくことをおすすめします。

アメリカの住所の書き方 — 番地・Apt・州略称・ZIPの順番宛先の書き方アメリカの住所の書き方 — 番地・Apt・州略称・ZIPの順番ネットの住所欄に最初の数文字を打っただけで、アパートの部屋番号まで含んだ候補が出てきて驚きました。USPSが全米の住所を一元管理しているからです。番地から始まる構造と、Address 1/2 が分かれている理由まで。

日本の郵便局との違い

日本の郵便局は郵便だけでなく、ゆうちょ銀行やかんぽ生命の窓口を兼ねていて、ATMや貯金、保険の手続きもできます。一つの建物で「郵便+銀行+保険」が揃うのは、民営化後も続いている日本独特の構造です。

USPSは純粋に郵便サービスの機関で、銀行業務は行いません。マネーオーダー(郵便為替)の発行はできますが、口座の開設や預金はできません。そのかわりパスポートの申請受付という、日本の郵便局にはない公的機能を持っています。

民営化された日本郵便と、公的機関のままのUSPS。方向は逆ですが、どちらも「郵便物が減る時代にどう運営していくか」という同じ課題を抱えています。USPSのForever Stampが19年で2倍になったのも、その答えの一つです。

参考